ドリーム小説
ベースの跡地へ戻ると、糞掃衣に着替えた法生が出迎えた。
「ナル知らない!?」
「いんや、あっちの子はどうした?」
「黒田さんは帰ったけど、んもー、どこ行ったのかな?」
世話しなく捲し立てる麻衣には呆れた目を向ける。
「だーかーら、そんなに心配しなくても。子どもじゃないんだから」
「恥ずかしくなって逃げ出したんじゃないの?」
「かもな」
目配せ付きの言葉にむかっ腹を隠せない麻衣は、それ以上何を聞く気も失せた様子で、つんとそっぽを向いた。
はそんな麻衣を尻目ににっこり微笑む。
「ナルは逃げませんし、自分の責任をまっとうする人間ですからご心配なく」
【悪霊がいっぱい!? 10】
「麻衣さん、さん、二階にレコーダーセットしましたです」
「ありがと、ごめんね、手伝わせちゃって」
二階から下りてくるジョンに麻衣は頭を下げた。
「男手がなくなったから助かったよ」
続けざまにが笑うと、ジョンは照れて後ろ頭を掻く。
「かましまへん。ほんならボクも、ちょこっと中を見てきますよって」
「うん、気をつけて」
見送った所で、咳払いをひとつ。
「疲れたね〜」
「うん」
なんて、
返事をする麻衣の目はやっぱりどこか遠い。
はニヤニヤしながら麻衣の横腹をつついてみた。
「ナルが心配?」
「え!?」
赤くなった頬に手を添えると、麻衣はぎゅっと唇を結ぶ。
「・・・そんな風に見える?」
「見える」
ぷしゅぅと頭から煙でも見えてきそう。うなだれた麻衣に、カラコロと笑う。負けじと麻衣はを指差した。
「そう言うだってやけにナルと良い感じじゃん!?
さっきだって“ナルは逃げませんし、自分の責任をまっとうする人間ですからご心配なく”
なぁんて言っちゃって!」
「あら、聞いてたの?」
「聞いてました!」
麻衣の耳に顔を寄せ「エッチ」と囁く。地団駄を踏んだ麻衣は、目元を吊り上げた。
「!」
「きゃぁぁあ〜〜」
あれよあれよと逃げ出していくと、その背中を追いかける麻衣。同じ所をぐるぐる回る二人の耳に床を踏む音が届いて、
「ナル!?」
振り返る麻衣の眼に、黒田が映った。
驚きを隠せない麻衣とに、黒田はしずしずと口を開く。
「どう?」
「あ・・・うん、黒田さんが帰ったあとにぼーさんと・・・巫女さんがもう一回お払いしたよ。今は見回りしてる」
麻衣と。傍に無愛想な男は居ない。
「渋谷さんは?」
その問いに、物憂げな姿はどこに忘れたのか、麻衣は仰々しい息を吐くと肩をすくめた。
「どっか行っちゃった。あーもー、悪霊なんてホントにいるのかな」
「わたしは見たのよ」
「・・・そっか、そう言ってたよね」
困った麻衣の背後から、ヒールの音を響かせて綾子が降りてきた。悠々と笑っている。
「・・・・・・あら、子どもの遊ぶ時間じゃないわよ、おうちに帰んなさい。除霊は成功したわよ」
「前もそう言って失敗したじゃん」
「今度はだいじょうぶよ!」
いかにも疑わしげな目を向ける麻衣にが笑うと、黒田は瞳に影を落とした。
「・・・まだ除霊できてないわ。感じるもの、まだ霊がたくさん居る」
「また霊感ゴッコ?やめときなさいよ、こっちはプロなんだから」
「そのわりにたいしたことないじゃない」
あからさまに気分を害した顔をする綾子。
噛みつこうとした綾子の後ろから、のんびりとした法生の声が水を注した。
「だーいじょうぶだって、綾子はともかく、おれがやったんだから」
「なんですってぇ!?」
にやりと頬を持ち上げる。
「本当の事だろうが」
「ひとの手柄横取りする気!?」
「そっちこそ」
互いの利益が一致しなくなったらすぐこれだ。呆れ返るの隣で、麻衣が低く声をあげようとした、
「あーのーねー」
その瞬間、
二階の廊下で誰かが走った。
「・・・誰か、いる?」
決して一人のものではない、大勢の人間が、今にも崩れそうな二階を駆け回る音。
「まさか!全員一階に・・・」
足音が階段に差し掛かる。
カツン、と床を弾く音。
だんだんと近づいてくるソレに、法生はたまらず二階へと駆け出した。
「だ、誰か居る?」
手すりに体重をかけ二階を覗き込む。目を凝らすと、いやに明るい声をあげた。
「いや、気のせいだろ」
「ちょ、気のせいって今のが!?あたしちゃんと聞いたよ!みんなだって、ぼーさんだって聞こえたんでしょ!?」
も、ねぇ!?と尋ねられ、神妙な表情で頷く。
綾子は固唾を呑むと、ふん、と鼻先で笑い飛ばした。
「風の音よ!」
「――っ」
麻衣が唇を噛み締める。
「いーかげんにしなよ!除霊に失敗したんだろ!?さっきあんたたちナルにエラっそーな説教たれてたくせに、そんときナルがくだらない言い訳した!?」
――今は、ほうってくれたほうがありがたい。自己嫌悪で吐き気がしそうだ
「大人のくせにみっともないマネ」
ドン!
二階の廊下が大きく揺れる。
巨人が拳を打ち付けたように、旧校舎全体が揺れるようだった。
「ノック音・・・」
「また!?」
電球が破裂する。
数えられないほどの廊下を駆け回る足音に、奥から転がり込んできたジョンが叫んだ。
「足音がさっきより増えてはります」
「屋内運動会かよ。おい、外に出ろ!天井に注意しろよ!」
「う、うん」
倒れた靴箱を縫うように走る。そんな麻衣の脇で、まだかろうじて立って居た靴箱が傾いた。
「えっ」
「麻衣!」
「あ、うわ、ちょい待った!」
(届か、ない!!)
見開いた目の先で、靴箱が麻衣へと覆いかぶさった。
「麻衣ッ!!!!」